大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和29(あ)821 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人前田力の上告趣意第一点及び同我妻源二郎の追加上告趣意第二点について。

所論はいずれも要するに本件はいわゆる囮捜査によつて捜査官が犯意を誘発せし

めて被告人を検挙し処罰したものであるから憲法一三条に違反する旨主張する。し

かしながら原判決は被告人は自己の自由意思によつて本件麻薬を譲渡したものであ

つて、犯意がないのに囮によつて犯意を誘発されたものではないと認定しており、

その認定は記録に徴し相当であるから、右違憲の主張はその前提を欠くものであつ

て採用することができない。

弁護人前田力の上告趣意第二点について。

所論は被告人は日本語に通じないのに第一、二審共、被告人に通訳人を附しない

で審判したから憲法三二条に違反する旨主張する。しかしながらこの点については

原審において控訴趣意として主張されておらず原審の判断も経ていない事項であつ

て、かかる事項について違憲を主張することは不適法である。のみならず、本件記

録によれば第一、二審を通じ被告人には私選弁護人がついており被告人からも弁護

人からも通訳人を附すべき旨の要請がなされた形跡なく、被告人は裁判官及び弁護

人の問に対して日本語で答をなし証人尋問の際には、自ら反対尋問さえなしている

こと明らかであることに徴すれば、事実審が被告人は通訳を用いずとも十分に防禦

をなし得るものと認めたことには何等不合理な点はない。従つて右違憲の主張はそ

の前提を欠くものである。

同第三点について。

所論は原審の証拠の取捨判断を非難しひいて事実誤認、量刑不当を主張するもの

であつて上告適法の理由とならない。(なお原判決は第一審判決挙示の証拠によつ

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てその判示事実を認定しているところ、第一審判決挙示の証拠の中には、所論のA

の麻薬取締官に対する供述調書は含まれていない、ただ同人の検事に対する弁解録

取書は含まれているが、検事の取調べの際におけるAの精神状態が所論の如く異状

な状態にあつたものではないことは第一審証人Bの証言に徴し明らかであり、しか

もこれらの証拠を除くその余の挙示の証拠によつて右判示事実は優にこれを認定す

ることができる)

弁護人我妻源二郎の上告趣意第一点(上告趣旨敷衍書の論旨を含む)について。

所論は事実誤認の主張であつて上告適法の理由とならない。(なお通訳を用いず

して被告人を審判したことを非難する点もあるが、この点に関しては弁護人前田力

の上告趣意第二点について判断を示したとおりである)

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

昭和三〇年一二月二六日

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 河 村 又 介

裁判官 島 保

裁判官 小 林 俊 三

裁判官 本 村 善 太 郎

裁判官 垂 水 克 己

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